滅亡の星、来たる

山本弘主導のグループSNEシェアード・ワールド・ノベル、新展開。
……流石、山本弘って感じだなぁ。

数百人の乗客を乗せたジャンボジェット機白亜紀アメリカにタイムスリップ。
……それから500年。
10万人以上に増えた彼らの子孫は、自らをフロンティア(開拓者)と名乗った。


恐竜と人が、ともに生活する世界。
500年の間に、人々は一部の恐竜を飼いならし品種改良して家畜やペットにしている。
貨幣経済は無く、原始的な狩猟農耕で生活を成り立たせ、数十から数百程度の人数でコロニーを形成して暮らしている。
だが21世紀の知識は、特に数学・物理学・天文学などの理系知識は、一部の「知識の守護者」が口伝に近い形で継承している。
地球が丸いなどの知識は誰もが持っているけれど、反面、キリスト教が残ってしまっていたりもする。
21世紀の知識は、フィクションとノンフィクションがゴチャ混ぜになってしまって誰もがあやふやな状態。


そして、人が白亜紀の世界を生き残れたのは、知恵と勇気があったからだけじゃない。
「ギフト」と呼ばれる超能力が人々に目覚めたからだった。


「ギフト」は8種。
人は、力の強弱はあれ一つ以上のギフトを必ず発現させている。
〈ソア〉を持つものを「ソアラー」、〈タッチ〉を持つものを「タッチャー」などと呼ぶ。


・滑翔者(ソアラー):自身にかかる重力を軽減させ身軽に動いたり、凧を使って空を飛ぶ
・触心者(タッチャー):接触テレパシー、逆に相手の感覚のコントロールを乗っ取ることも可能
・幻創者(ホロメイカー):幻像を作り出す。無機質の幻像には実体を与えることができる
・浮揚者(リフター):重力を軽減して重いものを持ち上げる
・誘導者(インデューサー):「キ」と呼ばれるものを打ち出してダメージを与える
・防護者(プロテクター):不可視のバリアを張る
・賦活者(ヴァイタライザー):肉体を賦活させ癒す
・夢見者(ドリーマー):短時間の未来予知、夢による他者との連結など


そして、時折、「ウィッチ」と呼ばれる特異体質が生まれる。
肉体的な、あるいは精神的な欠損を抱えているが、強力なギフトの才能を持つものである。


ほとんどの人々は、自分の生まれたコロニーで一生を終える。
まれに、コロニーの間を放浪するものたちがいる。彼らをローグと呼ぶ。行商を行なうものもいれば、ならず者もいる、そんなならず者からコロニーを救うために戦うものもいる、いわゆる、ファンタジー世界の冒険者だ。
そして、この世界に暮らすのは人間だけではない。進化して知性を持つ恐竜、ディノマン。彼らもギフトを持つ。


この第1巻「滅亡の星、来たる」では、成人の儀式を成し遂げられなかった少年少女が主人公。
幻創者/賦活者のシロウ。その妹で滑翔者/誘導者のサユル。盲目聾唖のウィッチで触心者/浮揚者のスーザン。ディノマンの滑翔者/夢見者*1のコバルト。
うーん、それぞれの性格が実に山本弘らしい。
言うなれば、サユルにはかなた、スーザンには摩耶のイメージがある。


今回の話では、〈タッチ〉が一つのキーになる。
ディノマンは全員が夢見者でリンクしているので、人間とは異なった世界観を構築している。
また、そのせいか、極めて論理的だ。
山本弘の作品は、異質な知性体を描くことが多い。メンターナにせよインチワームにせよ、西部諸国のリザードマンにせよ。
その中で、一貫して描かれているのは。
「人間という種族は、不合理な種族だ」という思いである。
人間よりも遥かに上位の知性体であるメンターナはさておき、インチワームやリザードマンやディノマンはきわめて合理的で理知的だ。*2
ディノマンから見た人間もまた、極めて「不合理な存在」だ。
不道徳なことを「思う」こと自体が不道徳なのではない。それを理性で抑えられることが「道徳」なのだ。
これは、何かと一方的な価値観を「道徳」や「良識」として押し付けようとする現代に対する、山本弘の憤りなのだろうと思う。
それは、僕も同じだ。*3人は集団になったときその愚かさを愚かさだと気付かないと、思う。個々人はそうでないと、思いたい。


ところで、山本弘がまたこんなにハードルを上げて(笑)。
いまのグループSNEに、こんな作品、書ける人材あるのかなぁ?(苦笑)

*1:ディノマンは全員が夢見者。

*2:そうでない知性体といってパっと思い出すのはゴーティグ人ぐらいだろうか。あれは非合理的な宗教盲信者のメタファーだからなぁ。

*3:以前、殺人と倫理について書いたように。