空の中

恥ずかしながら、有川浩の作品は一つも読んでおりませんでした。
書評などを読むに、私好みの話を書く作家だな、というのはわかっていたのですが。
何分、相方が書棚をこれ以上増やすのを余り好まないもので、ハードカバーには自制をかけておりました。
そうして待望の文庫化。

空の中 (角川文庫)

空の中 (角川文庫)

……くそっ。
なんて掛け値なしに面白いんだ。
今まで読んでいなくて、人生損をしていたんじゃないかと、本気で思うくらいに面白い。


SFで、もの凄くよくできた怪獣小説だ、とは誰が言っていたのだか。まさにその通り。
怪獣……即ち未知の生命とのコンタクトを描いており、そして件の怪獣であるところの【白鯨】を含め、登場人物が非常に魅力的だ。
ただ女の子がいっぱい出てきて、ありえない文法で喋り、ただひたすらに主人公に奉仕するようなライトノベル作家に読ませてやりたい。
これがキャラが立っているということだ。
武田三尉がどれだけ可愛いんだ。


しかも、文章は軽快で、だが軽薄にならず。
しゃれっ気も非常に利いている。
「こんにちは・お昼のニュースの時間です」とか。
「お子様ランチはただいま旗を切らしております」が『王様のレストラン』の台詞だなんてなかなか出てこない(笑)。


SFとしてのポジションは、山本弘に近い。
異質なメンタリティを、人間のランゲージで描こう、理解しようとしているところが特にそう思わせる。
高巳とディックの会話なんて、
ただ……山本弘のファンとしては悔しいことに、彼にはない華があるんだよな有川浩には。
それが民衆に人気が出るかの決定的な違いだ。
図書館戦争がアニメになるなど、人気が出るのは非常にうなづける。


そして本書で、一番びっくりしたのはその筆力だ。
異質な知性体とのコンタクトならば、それが主題になると思われるが、コンタクトは3分の1のあたりで成功したかに見える。
ところが、社会情勢や少年少女パートに描かれるトラブルによって話は混迷を極め、取り返しの付かない事態へ加速する。
今日まで読まなかった私の読書家としての人生は損をしていたかもしれない。
そして、読んでよかった。そう思える作品だ。