いさましいちびの駆け出し魔法使い

待ちに待っていました……
ついに新作か。

いさましいちびの駆け出し魔法使い (創元推理文庫)

いさましいちびの駆け出し魔法使い (創元推理文庫)

ちなみに、説明しておくと。
かつて富士見ドラゴンノベルズに「魔法使いになる方法」という小説が刊行されていました。
1881年5月・1992年3月に計2冊。
魔法使い(ウイザード)になる方法 (富士見文庫―富士見ドラゴン・ノベルズ) 魔法使い(ウィザード)になる方法〈2〉 (富士見文庫―富士見ドラゴンノベルズ)


ドラゴンノベルズ自体が翻訳小説はおろか、リプレイ以外の小説からもほぼ撤退になりまして続巻は断念されていたんですが。
突如、昨年、創元推理文庫から旧二巻が改めて翻訳され、続巻が告げられました。
駆け出し魔法使いとはじまりの本 (創元推理文庫) 駆け出し魔法使いと海の呪文 (創元推理文庫)
基本的に、各巻で完結している作品なので、続巻がないと気になって夜も眠れないというワケではなかったんですが*1、あとがきで引き合いに出されているようにハリーポッターがブームになった時代なんですが、本書は「はてしない物語」や「ナルニア国物語」など古き良きファンタジー作品の系譜を受け継ぐ良書です。


もともと、第一巻が So You Want to Be a Wizard なので、富士見版の「魔法使いになる方法」が直訳で、うまいタイトルだと思ったんですが。
創元推理版の「駆け出し魔法使い」シリーズというタイトルは、原書のシリーズ名であるyoung wizardsの直訳なので、まぁ、これもアリなのかなぁ、という感じです。
今回は原題 High Wizardry に対して「いさましいちびの駆け出し魔法使い」は訳はほとんど関係なくなってますが、実に古典に倣っていいタイトルです。


第一巻では、いじめられっ子のニータが図書館で「魔法使いになる方法」というタイトルの本を見付け。魔法使いになり、世界を脅かす存在と戦う話。
第二巻では、海が舞台になって。海に潜む太古の魔法をニータとキットが実施するという話。
そして今回は、ニータの妹、デリーンがナンと魔法使いになってしまい、宇宙に飛び出します。


正直、旧いファンタジーの基本的な概念はなぞっているにもかかわらず、その世界観や手法にはSF的な、科学的世界観の影響がよく見えます。
魔法使いが戦うべき「闇」の力は、いわばエントロピーの増加。
宇宙中にたくさんの魔法使いが存在して、世界が極大エントロピーへ至って終わることを防いでいます。
そして、今回デリーンが手にする「書」は、ナンとMacの中のソフトウェアです。*2
科学と魔法の融合、そのバランスが実にすばらしい。


まぁ、本書の原書が1990年の作品なので、宇宙論の一部、それからMacを中心にコンピュータ関連の知識はどーんと昔のものです(笑)。
ま、それはそれとして、ファンタジーは時代を超えて面白いものです。
続きが楽しみだ。

*1:昔のTRPGファン的には、社会思想社教養文庫A&Fシリーズの「炎の剣士」シリーズの続刊が気になって気になって気になって、どーしようもないと思うんですが(苦笑)。

*2:ベータ版です(笑)。指南書をソフトウェア形式に落とし込む計画が進んでいて、そのベータ版がデリーンの手に渡ってしまっています。