TRPGを始めようとすると

おとなり日記をつらつら眺めていたら、TRPGの教本の存在について論じているところがあった。
それで思い出したことがある。
去年の秋だったが、友人の友人で、女性向けゲームコミュニティの中の人たちにTRPGを薦められないか、という話があった。
結論としては、場所柄、うちのコンベに来てもらうことも難しかったので、現地で集められるメンバーやプレイスペースの問題で頓挫して、立ち消えになってしまったのだが。
女性層の薄いゲーマー業界、啓蒙に貢献できなかったのは返す返すも残念ではある。


まずはTRPGを理解してもらうということで、わかりやすいものを探した。
例えば、プレイ風景を収めたCDなんていうものもある、トーキョーN◎VAのものとクリスタニアのものがあるが、どちらもギコチナク、偏りがある。
しかも。いずれも10年前のものでそれ以降、新しい試みがないのは成功とはいえなかったからであろう。この辺には当たり前の腹案があるのだけれど、今回はさて置く。


世界観を理解してもらう、という意味ではリプレイは適当だ。
しかし、リプレイというのは特定の作品のものであるし、ゲームの種別が定まらないと論じにくい。
種別といえば、TRPGユーザーは、「初心者に」という冠を付けると安易にファンタジーRPGを薦めることが多いが(確かに、RPGからするとD&DやSWなどがスタンダードだが)、僕の経験だと、TRPG未経験者でファンタジーに理解があるのは約半分以下。DQやFFなどのコンピュータゲームを誰もが知っていて、LotRハリー・ポッターが人気を博した現状ですら、剣と魔法と竜の世界で何をしたらいいのか、戸惑う人は多い。
それに比べて、現代ものは理解が早い。
最近のもので言えばやはりダブルクロスだ。一昔前はとりあえずクトゥルフで現代ホラーをやったりする。
その他に、初心者が一発で理解してくれるものにRPG福袋の「もう誰も〜同窓会RPG」などがある、これはジェットコースタードラマをテーマにしたミニゲームだから、今日び、ドラマを1本も見たことがない人はいない。
CLAMP学園探偵団も馴染みやすさではなかなかだった。


そんなこんなで、ダブルクロス・リプレイを貸すことにはしたが、F.E.A.R.系のゲームもリプレイもクセがある。個性が強すぎる上に、内輪受け的なネタが多い。
かなり悩んだ。
悩んで、しかたがないのでフォローを入れることとした。


また、これは既存のリプレイ全般に言えることだが。GMの視点から書かれており、「初めてゲームをするプレイヤー」の参考になるかというと、どうも難しい。
もちろん、読みやすさを考えると(シナリオの進行を取り仕切っている)GMからの視点が必須なのはもちろんだが、結果としてGMが一番目立ってしまう。そして、TRPG未経験者は「自分が何をするか」を知りたいものなのだが、リプレイを読んでもGMが一番目立ってしまっているので、漠然とゲームをわかった気になってしまう。
そして、実際に現場に臨んで、本からは読み取れないものに戸惑う。例えば、カラダがあること自体に違和感を感じるケースもある。確かに、リプレイはそれだけで読めるように編集してあるから、当然なんだけど。現場を知らない人間からすると、それを想像して読めというのは無理がある。
例えば、ゲーム中の「プレイヤーの情景描写」があり、GMの台詞を地の文に埋め、あくまでカギカッコの台詞形式はプレイヤーにとどめる。そういう書式のほうが、初心者プレイヤーには参考になるのだろうと思うのだが。
まぁ、それが読み物として面白くなるか、とか、現状のユーザーに受け入れられるか、とかは別だと思う。


TRPGを始めよう、という明確な意志がある場合。
僕がお薦めしたいのはこの本だ。

[bk1はこちら]
もっとも、13年前の本であり、既に絶版であろう。
しかし、今日において、この本に勝る入門書は出ていないと断言できる*1


この本は、グループSNEの社長であり数多くの罪なき青少年をRPGにハメてきた(笑)安田均と、RPGマガジン編集長の経歴を持つ*2村川忍の強力なタッグで執筆された。
ルールブックを買い、仲間を集め、場所を選定し、道具をそろえ、ルールを把握し、シナリオを考える。こういう手順をきちんと説明している。
「RPGというのは、こういう手順が必要なのだ」ということを説明している本は他にない*3
これらを学ばずに、ゲームの楽しみだけを知ってしまう場合、近年コンベンションなどでよく見るユーザーのように、プレイグループを持たず「GMに楽しませてもらう」だけの消費者型のユーザーになってしまう。
そういうユーザーだけになれば、業界は自然と消滅に向かわざるを得ない。
また、既存シナリオの流用の仕方、元ネタがあるものの膨らませ方、なども指南してあるのでGMの入門書としても最適。
13年前の本であり、入手するのは難しいかもしれないが、RPGを始めてみようという人に、是非読んで欲しい一冊である。

*1:山本弘こいでたくの「RPGなんてこわくない」も良書だが、ある程度RPGを知っていて、伸び悩んでいる人向けだと思う。

*2:この当時はグループSNEに所属し、現在は富士見書房のゲーム事業部に勤務している。

*3:いや、ルールブックには書いているものもあるにはあるが……。