レインツリーの国

有川浩作品、待望の文庫化。
第三弾と数えるべきか……*1

レインツリーの国 (新潮文庫)

レインツリーの国 (新潮文庫)

本書は、有川浩作品の中でも特筆すべき特徴がある。


それは、メディアワークス刊で有川浩出世作図書館戦争〉シリーズのスピンオフ作品でもあるという点。
こういった作品が、出版社を越えて刊行されるのは珍しい出来事だ。
だが、それだけが本書の特筆すべき点ではない。


本書は「図書館戦争」の世界とはまったく異なる、独立した一篇になる。
では、「図書館戦争」世界との関係性はというと、本書が「図書館戦争」世界の中で言及される同名の作品そのものである、ということになる。
……メディア良化委員会によって、検閲の対象とされている、という形で「図書館戦争」内に登場する。*2
そう、本書は「検閲されうることを想定して描かれた物語」なのだ。
そして、その書籍が刊行されたことを、とりあえず現在の私たちは喜び、誇りに思うと良い。


本書は、ネットで出会った一組の男女の物語。
少し普通でないのは、その片方が、聴覚障害を負っているということ。
主人公たちは、その障害に正面から取り組み、自分たちなりの回答を求め、とにかく現在を必死に生きようともがきます。
そこに、差別や侮蔑の意図は欠片も見えません。
むしろ、正しく啓蒙する良作です。


それでも、普通、出版社や放送局などのメディアは、ドキュメンタリー以外の名目で障害者を取り扱うことも嫌います。
その原因は、臭いものには蓋をしろといわんばかりの障害者保護団体の異常な信条と活動にありますが、それは置いておきます。*3
それでも、「図書館戦争」世界内では、メディア良化委員会は本書を検閲の対象にしています。


ただ、障害者を扱ったというだけで。


そのこと自体の、作者の思いは。肝心の「図書館内乱」を読むか、本書の後書きを読むとわかります。
ちなみに、本書の後書きを書いているのは山本弘
アニメ「図書館戦争」で、この「レインツリーの国」に絡むエピソードが放映できなかった件に触れられています。
そう考えると、放送メディアは出版メディアに比べると如何に前時代的であるかがうかがえます。
……だからこそ。自分は、本を読むことを誇りに思います。

*1:デビュー作「塩の街」は電撃文庫で一度出版されているので、それを数えるかどうかが問題。ちなみに電撃文庫塩の街」は持ってたんですけど、あのイラストが受け入れられなくて手放してしまいました。

*2:厳密には、第二巻の「図書館内乱」。

*3:私自身もボランティアに携わった経験がありますが、障害者本人たちの中にはそういった活動を快く思っていない人がたくさんいるのも事実です。